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感情労働とは、“抑える”ことではなく“聞く”こと。「人の気持ちがわからない奴」と罵倒された男の“無為自然”

インフォバーンで働く社員へのインタビュー企画。今回は、企業のマーケティング支援事業を行うIBX(INFOBAHN EXPERIENCE)部門のコンテンツ・ユニット(Web編集制作チーム)に所属されている樋渡和史さんです。

チャラい(?)テニサーの学生から、お堅い(?)市役所の職員になり、そこから転じて、出版社、インフォバーンと「編集者」としてのキャリアを歩まれてきた樋渡さん。公務員出身という編集者としては異色の経歴を持つ樋渡さんですが、お話をうかがうと、常に「相対する人」の感情に向き合いながら仕事をされてきたように感じます。

老子の思想に感銘を受け、「ただそこにいて“聞ける”人間」が目標だと語る樋渡さんに、キャリアを振り返りながら、仕事やコミュニケーションに対するお考えをうかがいました。

テニス歴10年、チャラサー出身?

――樋渡さんは埼玉県の市役所に勤めていたそうですが、地元が埼玉でしたっけ?

地元は埼玉県の久喜市というところですね。半蔵門線の終点なので、そこで名前を聞いたことがある人がいるかもしれません。家の周りは田んぼだらけの土地で、カルチャーとしては、北関東と首都圏とにまたがっている空気ですかね。

――そんななかで、どんな10代を?

地元にいたのは小学校までで、以降は東京の中高一貫校に通っていたんですけど、6年間テニス部で、大学でもテニスサークルに入っていました。

――樋渡さんの世代だと、『テニスの王子様』全盛期ですよね。あの錦織圭も好きだったという。

そうです、まさにその世代です。自分はそうじゃなかったんですけど、めちゃくちゃよく言われてました。確か最初はバスケ部に入るか迷っていた記憶があるんですけど、せっかくだしやったことないことをやってみようかなというくらいの気持ちでした。

――テニス部って、わりとコートに対して部員数が多かったりしますよね。

そうですね。うちは中学も高校も合わせて同じテニス部だったんですよ。だから、いちばん多いときだと200人ぐらいいました。校庭にテニスコートの線が書いてあるんですけど、テニス部専用として全部使えないんですよ。狭い校庭を全部活でシェアする感じで、いちばん多く使えて4面。1年生のときは長期休み期間以外はボールが打てなかったですね。

――僕が通っていた中学もテニスせずに走ってばっかで、一部で「マラソン部」ってバカにされていました(笑)。大学時代はどんな学生でしたか? 「テニサー」というと一般的にチャラいイメージもありますけど。

それこそ僕は、まったく勉強せずに最低限の単位を取るような、わりとイメージ通りのテニサーの大学生でした。ただ、そこまで特別にチャラくもないし、強くもないサークルで、自分も金髪とか緑の髪だったこともあるんで、格好だけ見たら派手っちゃ派手なんですけど、そんなに破天荒なことをやっていたわけでもないです。

▲樋渡さんからご提供いただいた大学生当時の写真

「人の気持ち、考えられない奴の目してるわ!」

――樋渡さんはそこから公務員になったそうで、チャラさとは対局の道ですね。

地元から少し離れたところにある市町村の役所に勤めていました。いわゆる就活の期間に、ちゃんと公務員試験の勉強はしてました。

――なぜ公務員に? 埼玉愛が深かったとか?

それは全然ですね(笑)僕は中学から東京の学校に通っていたので、小学生のころしか地元で遊んでないんですよ。だから正直、地元への思い入れもあんまりないんですよね。

「働くこと」に対して熱量がなかったので、一生懸命稼ごうとか、出世しようとか、全然思っていなくて。決められたことを、決められた時間、決められたようにやって、お金がもらえればいいと思っていたので、じゃあ公務員かな~っていう発想です。

ただ、実際に入ってみてわかったんですけど、時期や部署によっては日付が変わっても帰れないこともあったので、「公務員はラク」っていうのはわりと誤解です。

――どんなお仕事をされていたんですか?

交通安全担当の部署に配属になって、辞めるまでそこでした。小学校に行って警察の方と一緒に自転車の乗り方を教えたり、交通指導員の方々の取りまとめをしたり、カーブミラーや道路の線の設置や修繕をしたり、業務はいろいろとありましたね。

――交通指導員というのは、黄色や緑色のジャケットを着ている方ですよね? 警察ではなく、役所の管轄なんですね。

そうです。基本的にみなさん、有償であってもボランティアとして活動されているので、お金をベースに動くビジネスとは違った難しさはありました。

――勝手にリーダーシップを取るおじいさんが現れて、面倒くさいとか?

いやいや(笑)。面倒くさいというか、こちらも悪いんですけど、しっかりキレられる、大声で怒鳴られる、ということはけっこうありました。

たとえば、お祭りが市であったときに、指導員の方にも出張ってもらって、警察による交通誘導の手伝いをしてもらうんです。その配置はこちらで決めるんですけど、事情があってA地点とB地点の人を交代したんですよ。本人同士は了解していたので、「じゃあ、変わっちゃってください」って進めたんですけど、リーダー格の方から「オレは聞いてねーぞ!」って怒られました。

――「報告が上ってねーぞ!」って感じですね(笑)。確かに、上司や取引先とも違う関係性なので、コミュニケーションの難しさがありそうですね。

交通安全担当は何人かいて、僕はさっき言ったカーブミラーの修繕のような工事寄りの業務が中心だったんですけど、そういう経験も時にはしました。

――市民の方との想い出深いエピソードは、何かありますか?

公営駐輪場の管理もうちの部署の仕事だったんですよ。排気量の少ない原付バイクだったら駐車OKな駐輪場があったんですけど、ある日、「排気量を越えたデカいバイクが停められているから、何とかしてくれ」という近隣住民の方からの電話が入ったんです。ただ、話を聞くと、実際に見たわけじゃないらしくて、「音がうるさいから、間違いなく、デカい排気量のやつだ」と。

ただ、実際に見に行っても見あたらないんですよ。「ここに停めてよいのは50ccまでです」みたいな警告を、見やすいところに貼ったりはしたんですけど、何も置かれていない以上、できるのはそれが精一杯で。ところが、「本当に対策したのか? まだいやがるぞ!」ってたびたび電話がかかってきて、すぐに行ってもやっぱり見あたらない、というのを何度か繰り返しまして。

ついに「埒があかないから、お前来い!」って言われたので、指定された場所まで行ったんです。そうしたら、自転車でそのおじいさんがやってきて、自転車から降りて僕の顔をパッと見るなり、「ああ、こりゃダメだ! 人の気持ち、考えられない奴の目してるわ!」って言われました(泣笑)。



▲樋渡さんからご提供いただいた写真。人の気持ちを考えられない奴の目??

――そんな⁉ さすがに言葉がひどい(笑)。

それっきり電話はかかってこなくなったんですけど、その一言は本当に思い出に残ってますね。

――そうか。普段は意識しませんけど、警察沙汰というレベルではないトラブルって、町中にたくさんありそうですもんね。そういう苦情・陳情を受けるのも、市役所の仕事なわけですね。

かなり細かいものとか、不思議なものもたくさんありましたね。「夜中、うちの庭先に車が来て、ヘッドライトで照らして帰っていくんです」と言うので、相談しに来たのかなと思ったら、「だから、探偵を雇ったんです!」って報告されて、なぜかちょくちょくその調査結果を伝えに来る方もいました。

「会話はキャッチボール」という言葉の真意

――市役所を辞めたのは、どうしてですか?

4年働いたんですけど、基本的にはその市から出ずに働き続けることになるので、「あと40年近く、ここにいるだけでよいのかな?」と考えるようになって、外に出てみたいと。

それでリサーチ会社に転職して、次に出版社に移りました。本が好きで学生のときに普通に就活をしていたら、絶対に出版社は受けていたし、もともと興味はあったんです。

――なるほど。そこから、編集者のキャリアがスタートするんですね。

そうですね。入った出版社は、いわゆる自費出版を請け負う会社でした。出版社はどこも、なかなか未経験者は採用してくれないので、編集者として雇ってくれるところを探した感じです。

――一般的な商業出版社とは違いもあるんでしょうか?

商業出版社で働いたことがないので違いは言えないんですけど、その会社はいわゆる「営業」的な業務も多かったです。自費出版は、「自分でお金を払うので、本を出したいです」という方が現れてから、制作がスタートするんです。だから、もちろん編集もするんですけど、まずは自分でお客さんをつかまえる必要があって、営業的なことと、編集的なことと、一気通貫でやっていました。

――作家になりたいタイプの人とか、ビジネス的に本を出したい人とか、どういう著者さんが多いんでしょう?

僕のいた会社は、企業出版とかのビジネス寄りではなくて、個人で自伝を残したいとか、小説を書きたいとか、そういう著者さんが多かったです。「本を出しませんか」という営業はしつつ、著者さんの側から会社に相談にくることもけっこうありましたね。

――なるほど。さっきのボランティアの話にも近いと思うんですけど、出版社がお金出して著者に書いてもらうのと違って、著者さんが出資者であり、作家でもあるから、コミュニケーションが難しそうですよね。

難しさは感じてました。出版流通に乗せたいだけだから、本の内容への口出しはいらない、好きに書かせてほしい、というスタンスの著者さんなら、ある意味ではラクなんですけど、基本的には「編集者」のサポートを求めているからこそ、依頼されるんですよ。

だから、お金を払ってもらっている立場ではありつつ、アレコレとアドバイスをしていきますし、ダメ出しをすることもあります。編集者が信頼されることで成り立つ関係なので、著者さんに「全然コミットしてくれないな」と感じさせてしまうと、関係がこじれることもありますね。

――現実的には、複数の著者さんを同時に抱えると思うので、1人のことだけを四六時中考えるのは不可能に近いと思いますが、たしかに著者さんの身になれば、「常にあなたのことを考えてます」という姿勢は求めたくなりますよね。

やっぱりコミュニケーションは「聞く」なのかなと思います。相手の発言や気持ちに対してリアクションすることも含めての「聞く」です。よく「会話はキャッチボールだ」って言いますよね。めちゃくちゃベタな表現ですけど、編集者を続けるうちに理解できるようになりました。誰だって、ただボールを捕ってほしいんじゃなくて、良い音を立てながら、しっかりミットで捕ってくれる人とキャッチボールしたいじゃないですか。

「自分の考えを理解してくれている」という納得感とか、「聞いてもらえている」という実感がなにより大事だなと。これは自分が話す側の場合でも同じです。

BtoBオウンドメディア/BtoCオウンドメディア

――そこからインフォバーンに入社されたのは?

自費出版の会社では、ずっと「企画編集」というような肩書で、先ほど話したように一人の人間が営業と編集を兼務する体制だったんですけど、完全に役割を分けることになって、自分は営業のほうに振り分けられることになったんです。でも、僕はどうしても編集の仕事を続けたかったので、辞めることにしました。

編集職ありきで探したんですけど、紙に限らなくてもいいとは思っていたのと、もともと『WIRED Japan』(インフォバーン創業者の小林弘人が創刊した雑誌/現在はコンデナスト・ジャパンが発行)が好きだったので、採用募集を見つけて「入りたい!」と思って受けました。

▲編集部が用意した『WIRED』をベンチで読む樋渡さん

――インフォバーンに入社してから、今までと何か違いは感じましたか?

業務内容としては、「編集の仕事」というところは同じなので、そんなにギャップはなかったです。いちばん違いを感じたのは、業務より人ですね。

インフォバーンの人は、みんなめちゃくちゃ理性的なんですよ。いつも思うんですけど、インフォバーンの職場にいて、怒鳴り声とかまったく聞かないじゃないですか。めちゃくちゃ上司がキレているとか、お客さんとケンカしているとか、見たことがないですよね。

――樋渡さんは、BtoB企業のクライアントさんの案件を多く担当されているイメージがあります。BtoBマーケティング支援だからこそ難しいと感じることはありますか?

逆に僕は、BtoBのほうが合っていました。僕が担当してきたBtoB企業のオウンドメディアは、極端に言ってしまえば、ビジネス情報を知りたい読者が多くて、趣味やエンタメ的に読みに来るケースはあまりないんです。だから、突飛なアイデアやギミックよりも、必要な情報を、適切な文脈で書かれていることが大事で、僕はそっちのほうが得意かなと。

――傾向として、BtoC企業のオウンドメディアがエンタメ誌的なら、BtoB企業のオウンドメディアはビジネス誌的というイメージでしょうか?

そうですね。ビジネス知識や業界知識が求められるので、勉強する必要はあるんですけど、僕はインプットすること自体が好きなので、そのへんは苦じゃないんです。事前のリサーチでも、取材でも、初めてのことを知れたな、いろんなインプットができたな、と感じられることが、僕の仕事の原動力になっています。

――入社から4年というところですが、何か変化はありましたか?

ずっとBtoB企業の案件だけしてきたんですけど、今年からBtoCメーカーの案件に入って、プロジェクトマネージャーを担当しています。いわば「interesting」というより、「funny」なコンテンツを制作する案件なので、企画の発想も全然違いますね。

今までは、企業のCXOとか、専門業務の担当者とか、学者の方に話を聞きに行くことが多かったのが、その案件では、製品を使ったチャレンジ企画を立てたり、公園で撮影したり、エンタメ系のライターさんにオモシロ記事を書いてもらったりしていて、振れ幅がすごいです。新しい、良い経験をさせてもらっているなと感じます。

「ただそこにいて“聞ける”人間」を目指して

――コンテンツ・ユニットの方がみなさん、各自付けているセルフコピー。樋渡さんの〈ひりひりもわくわくもしないけど、ただそこにいて“聞ける“人間〉というのは、先ほどのキャッチボールの話に近い考えからでしょうか?

それもありますが、元ネタというか、ベースは老子の教えですね。水のように生きる、自然の成り行きに任せる、みたいな“無為自然”を謳う「老荘思想」の老子です。その老子が、良い為政者の条件として、「太上は下これあるを知るのみ」と言っているんです。暴君は論外として、名君と称えられる人でもなく、「存在は知っているけど、何をしているかわからない」というくらいの人が、実はいちばん良いんだという意味ですね。

そういった思想はカッコいいなと思って、そうなりたいという願望込みで、セルフコピーを付けました。すごい切れ者だとか、オーラがあって緊張するとか、そういうことは感じさせずに、ただそこにいることで、何となく周りの人が話すようになる存在でいたいという。

――確かに、「オレがオレが」とエゴをむき出しにしない感じ、カッコいいですね。

ただ、願望込みと言ったのはそこで、最近は、自分には自己顕示欲もあるし、承認欲求もあるというのはけっこう認めて受け入れるようにもなりました(笑)。比喩ですけど、虹を見てキレイだなと思ったときに、「この人に言いたいな」って思ってもらえるような存在になるのが今の理想ですね。

――ラブレターみたいな素敵な言葉ですね。最後にメッセージとして、インフォバーンに入ってどこに良さを感じたか、どんな方にインフォバーンに入ってほしいか、ぜひ教えてほしいです。

繰り返しになっちゃいますが、この会社の良さは本当に「人」だなと思います。先ほど「みんな理性的」と言いましたけど、インフォバーンの人って、「湿度」が高いとも思っています。語弊を恐れながら言ってますけど(笑)。理性的ではあっても、あんまりカラッとドライな人はいないというか、どこかウェットさを感じるんですよね。僕はわりと内省的なほうで、どうでもよさそうなことについて考え込んじゃうことが多いんですけど、それに対して「そんなこと考えても無駄だよ」「考えすぎだよ」って言う人があんまりいない。

――ああ、きっと相手にも同じように内省する心があるんですね。

そうなんですよ。そういうところが、自分は良いなって思っています。だから、インフォバーンには、すぐに「やり方を教えてください」とか、「TIPSを教えてください」とか、求めるんじゃなくて、自分と同じような壁に当たったときに、他の人はどんなやり方をしたのか、具体的なエピソードで聞きながら、自分なりに解釈をしていって、「じゃあ、自分はこうしてみようかな」と考えられる人が合うんじゃないかと思いますね。

――なるほど。マニュアル化されていてすぐに答えを出せることより、社員の顔が見えてくるなかでうまい具合に参考にしていける。それがいいなって思える人が。

そうですね。プロセス理解というか、ナラティブ感度というか。あんまりストレートに解を求めすぎるんじゃなくて、周りにいる個人、個人から、いろんな情報を自分でつなぎ合わせて、自分で納得して仕事を進めていく。そういう形に価値を感じる方に、ぜひ入社してほしいですね。



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