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なぜ無報酬の小さな学習塾に、やる気のあるボランティア講師が集まり続けるのか?

多くのボランティア講師とともに学習支援を行う「NPO法人八王子つばめ塾」理事長・小宮さんの挑戦(後篇)

2019/02/22

小宮位之(こみやたかゆき)さんが34歳のときに1人で始めた学習支援ボランティアは、現在「NPO法人八王子つばめ塾」(以下「つばめ塾」)となり、7年目を迎えました。85人の生徒へ無料の学習支援を行うのは、70人を超えるボランティア講師。開講日の教室は熱気に包まれ、生徒の学べる喜びと講師の教える喜びが、互いの表情から伝わってきます。すべての講師は無報酬のボランティアで、交通費さえも自費負担ながら、遠くから電車を乗り継いで通い続ける講師も少なくないといいます。

多くの企業が人手不足に悩むなか、なぜ「つばめ塾」にはボランティア講師が集まり続けるのか? 小宮さんのお話からかいま見えたのは、報酬とは異なるモチベーションを求める人の姿でした。

前編▶お金だけでは測れない「教育」の可能性を信じて。34歳で"無料塾"という天職に出会う。

ボランティア講師に求めるのは、1つだけ

映像ディレクターや元教員といった小宮さんと同じ経歴を持つ人もいれば、新聞社に勤務する人、自宅で英語を教える塾を開いている主婦、世界中を飛び回り外国語を駆使して仕事をしていた元商社マン、現役の大学生…。「つばめ塾」のボランティア講師は、まさに多士済々。彼らにボランティア講師を始めたきっかけを尋ねると、大きく3つに分かれると、小宮さんは教えてくれました。

−−どのような思いから、皆さんは講師を始めたのでしょうか?

「皆さんに講師になった動機を聞くと、重複もありますが『子どもの貧困をなんとかしたい』『自身の持つ教育のスキルを役立てたい』『やれることでボランティアをしたい』という3つに分かれます。個々人のボランティアの目的も異なるので、私としては、生徒にとってのベストを尽くしてもらうという一点に、責任を持ってもらえればいいと思っています」

−−講師に対して、指導や研修は行っていますか?

「講師の経歴や勉強を教える力を駆使して教えてくれればいい、というスタンスです。例えば、英語を教えるのであれば、英単語の解説からでも、リスニングから始めるのでも問題ないです。ボランティアの方々に細かいことを指示する気はなく、『つばめ塾』へ来る頻度に過度な責任を持ってもらう必要もないと思っています。自身のボランティアの目的に向かって、できることだけ、やりたいことだけやってもらうよう心がけています。マニュアルを決めて『こうしなければ、つばめ塾じゃない』などというつもりもないです。ボランティア団体を運営する側として、あまり過剰なマニュアルだとか、決まりごとは作らないっていう方針で、運営してますけどね。そのやり方で約7年やってきて、大きなトラブルなく続けられています」

気を遣っているポイントも、1つだけ

70人以上のボランティア講師をマニュアルや研修で縛ることなく、いわば“放任主義”でおのおのの裁量に任せているという小宮さん。しかし、1つだけとても気を遣っていることがあるといいます。それは「生徒と講師との相性」です。

−−なぜ、教え方やスキルではなく、相性なのでしょうか。

「生徒と先生の相性は、ものすごく観察して気に掛けています。ある先生が世界中すべての人から嫌われているわけでもないし、同時に世界中のすべての人から好かれてる先生もいないですよね。マッチングの要素は相性でしかないと考えています。相性をよく見て、合わなかったら違う先生に代わってもらうということには、気を遣っています」

−−教え方が画一化されていないことは、そことつながりますね。

「先ほどの英語の教え方のように、英単語の暗記からじゃ分かりにくい生徒もいれば、耳から聞いて覚えたほうがいい生徒もいますからね。マニュアルを決めない意味はそこにもあって。教え方を固定化してしまうと、それに合わない講師や生徒も出てきてしまうのです。さらにマニュアルを作ったり更新したりするコスト、それを実行させるコスト、現場を監督するコストなども生まれてきてしまいます。そのコストを考えたら、とてもじゃないけど、それはもうボランティアではやり切れません。まさに、給料が発生するようなレベルの仕事になってしまうので、それは、『つばめ塾』ではやる必要はないかなと」

−−マニュアル化を求める声はありませんか?

「マニュアル的なものを作ってほしい、という声が上がることはあります。でも、作りません。その方針が分かってもらえると、講師を辞める方もいますが、『何も指示がないのであれば、自分で作ればいいか』と、例えば講師自身でオリジナルの指導用プリントを作って生徒に教えてくれるような方は、残って続けてくれています。結果的に自発的・自主的にやってくれる人に続けてもらえて、ありがたいですね」

−−企業ではできないこと、なのかもしれませんね。

「そうだと思います。無報酬のボランティアであるがゆえに、個々の講師が自由に教えられるのです。『つばめ塾』でのボランティア活動に魅力を感じてもらえているのは、マニュアル化された仕事や、裁量の範囲外から左右される仕事とは対極の、“自分の裁量で、自由にできること”で、生徒のためになるからだと思うのです」

−−仕事中心社会とは逆のところが、ボランティアの魅力だと。

「70人を超える非常に多くのボランティア講師が、金銭的には1円の得にもならないことのために、熱心に来てくれてるのは、自分の裁量でできることで、しかも、生徒を教えたいと思ったときにできる場が、あまりなかったからじゃないかと。単に教えるのが目的であれば、企業が運営している有料の塾の講師として、アルバイトという選択肢もあります。でも『つばめ塾』と比べたら、『テキストのこの範囲を1週間で教える』とか、何らかのマニュアルやルールがありますよね。決めざるを得ないですから。初めて講師をする人には、それがハードルになってしまいます。ボランティアの無料塾の意義は、学びたいけれど学べない生徒のためだけでなく、『教えたいけれど、教える場がない』という講師のためにも、大いにあるのだと思います」

「あのとき先生になれなくて、よかった」

「教えたいが、教える場がない」という言葉の裏には、大学卒業後に教員を目指すもかなわなかった、小宮さん自身の経験がありました。小宮さんが大学を卒業した2000年はバブル崩壊後の就職氷河期がピークを迎えた時期で、教員採用の枠も激減。自治体によっては社会科の教員採用枠が1名というケースもあったといいます。小宮さんは当時を振り返り「あのとき、フルタイムの教員になっていなくてよかった」と語ります。

−−大学卒業と同時に教員になれなくてよかったと思うのはなぜでしょうか?

「大学卒業後、私立高校の非常勤講師として職を得ましたが、そのおかげで映像製作の仕事へ転職できましたからね。フルタイムの教員だったらもちろん声も掛からなかったでしょうし。映像制作の仕事を通じてウガンダや、レバノンのパレスチナの難民キャンプとか、観光では絶対に行けない場所へ行ったことが、自分の視野を大きく広げました」

−−どのような体験だったのでしょうか?

「ウガンダで取材したのは少年兵士です。当時のウガンダは政府軍と反政府軍が交戦中で、反政府軍は10歳〜12歳くらいの男の子を拉致し、兵士として洗脳していました。拉致され、銃を持たされて戦闘に参加させられ、脱走して見つかれば他の少年兵士たちからリンチを受けて殺されるのです。私が訪れたのは、反政府軍からはぐれた少年兵士をかくまって保護する施設で、顔を見ればかわいい顔をした男の子たちです。でも、そのなかには故郷を襲撃する際に先頭に立たされ、「親戚にも銃を撃った。もう二度と故郷に戻れないんだ」と寂しそうに話す子もいました。アフリカの子どもたちの現状を目にした衝撃で、ホテルに戻ってもその事実を受けとめ切れず、毎晩涙を流しました」

−−それが、後に「つばめ塾」へとつながることに…。

「そのときに、人を育てるチャンスがやってきたら、絶対、人材育成するんだっていう、後輩を育成して、世の中を少しでもいい方向に、そういう子どもたちっていうか、青少年を育てたい、という気持ちが、まっさきに出てきたんです。それを心の奥底に抱き続けていたから、義母から『学生寮に空き部屋が出た』という話が降ってわいたときに、無料塾を自分でやろうとすぐに思えたのです」

「いろんな経験がすべて、今につながっているので、どんな経験も無駄じゃないと本当に思いますよね」と、最後に語ってくれた小宮さん。「つばめ」の名の由来は、生徒が講師としていつか再び“巣”に戻ってきてほしいとの思いからだといいます。「教わりたい」と「教えたい」という熱気があふれる「つばめ塾」で、生徒がボランティア講師から勉強を教わる姿は、小さなつばめと大きなつばめが、ともに自由に大空を羽ばたく姿にも見えました。

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